●はじめに
電子工作を楽しむための市販キットやブレッドボード配線は非常に優れたもので,多くの技術者もここを出発点としていることでしょう.それでも,回路を少しアレンジしたり,ケースに入れて実用機器にしたいときは自由に配線できるユニバーサル基板(以下「自在基板」と表記)を使うことが多いことと思います.
雑誌の製作記事でも多くの筆者の方々が自在基板を使って作品を発表していますね.実態配線図まである記事もたくさんあります.しかし,自分で実際にやってみようとすると,どうでしょうか.電子工作を始めてすこし慣れてくると,この自在基板の配線がひとつのハードルに感じた人は私だけではないと思います.
この連載では,私がいつも行っている方法を紹介しながら,どんな材料をどんな方法で組んでいるのか,途中ではサンプルの回路を作りながらお付き合いいただきたいと思います.
楽しく作った「電子工作」の作品は,バラしてしまわずに完成度を上げて,さらに楽しみましょう.
●自在基板の配線とは
写真1の回路は、白色LEDを点灯するだけの簡単な回路をブレッドボードに組んでみたもので,写真2で自在基板に配線し直したものです.抵抗の値が少し違うのはご容赦ください.このように丸いパターンを線とはんだでつなげて,キットの「配線がプリントしてある基板」のように回路配線にしてしまうものです.
基本は,回り道しながら交差しない配線で全部できてしまうのが理想です.写真では回路の内容に対して自在基板の面積にも余裕があるので,なかなか良いセンいっています.それでも交差する配線が何本かあるので,それ以上時間をかけて回り道を考えるよりは,渡り線(写真2下の3本の白い線のこと)とジャンパ(基板の表面で渡っている線:2本あります)を使って完成させました.
この「渡り線」と「ジャンパ」を駆使すれば,より柔軟に配線できてしまうのです.極端にいえば,全部の穴に部品が配置されている超高密度基板も製作できてしまうということです.
「渡り線」のやり方は,各人によって好みあるようです.
●業務用でも1台だけの特注機器は,自在基板で作る
電子工作の世界だけではなく,立派に製品として通用します.試作はもちろん,一品ものの特注回路にも使います.手配線といっても10年以上もノーメインテナンスで動いていたりするので,しっかり作れば製品としても使うに耐えるものができます.もし壊れても,自分で配線したものならば直せばよいのですから.
●すこしの慣れは必要
業務で常にはんだゴテが使える人は別として,いざ配線しようとすると「あれがない・これがない」で面倒なものです.でも,慣れてしまえばキットを作るのと同じくらいにできることもあるのです.
これから紹介する方法は,私の独自のやり方もあり,電子工作ならではの少し乱暴なことも多少やりますが,やりやすい部分だけとりいれていただき,ぜひとも自在基板ワールドを堪能してください.
●自在基板の種類…安価なガラス・エポキシ基板が登場
写真3 いろいろな自在基板(はんだ面)
写真4 その表(部品面)
小型の自在基板の例.上の二つはガラス・エポキシ片面(サトー電気),下は左から紙エポキシ片面,1.27mmピッチ・ガラス・エポキシ両面スルーホール,2.54mmピッチ・ガラス・エポキシ両面スルーホール(秋月電子通商)。
もっとも広く流通しているのは,2.54mmの間隔で正方に並ぶ丸パターンの基板です.通称「蛇の目」基板と呼ぶもので,基板の厚さ1.6mm,パターン径は1.5~1.8mmで穴径0.8~0.9mmが多いようです.
写真5 最も普及している片面「蛇の目」基板,2.54mm間隔で並ぶ.この基板は外周パターンがつながっている.
●値段があえばガラス・エポキシ 2.54mmピッチ 厚さ1.6mm 片面パターンがお勧め
基板の材質はベークライト、紙エポキシ、ガラス・エポキシ、紙フェノールなどあり,それぞれ特徴があります.その中でガラス・エポキシ(略称「ガラエポ」)とは,ガラス繊維をエポキシ樹脂で固めて強度をもたせたもので,産業用にも広く使われています.安価なガラエポの登場で、ほかの素材と価格差が少なくなってきたので電子工作でもどんどん使いましょう.
また,その強靭さが幸いしてハサミでカットしても割れないで切れるのも良い点です.ただ,欠点もあります.加工するときにガラスの粉を発生し,工具を傷めることがあります.
なお,スルーホールというのは,表と裏のパターンがつながっていて,穴の内側も金属で覆われています.これはこれで使い道がありますが,この連載では主に片面を使います.
図1 片面基板とスルーホール基板の断面の違い
●表面の色もさまざま…好みで選んでよい
銅箔の表面にはんだメッキ(銀色)してあったり,透明な保護材(耐熱フラックス)が塗布してあったりします.私の経験ではそれほどの差はありません.かえって銀色はライトが反射して作業しづらいことがあります.はんだメッキしていない銅色のパターンでも10年ぐらいはほとんど変わりません.
基板の良し悪しは,使ってみてはじめてわかります.とくに基板材と銅箔の接着性などは,2,3回はんだし直してみると粗悪品はすぐにパターンが剥れてしまうことがあります.ですが,1回限りの電子工作では問題になりません.剥れてしまったら隣のパターンを使えばよいのです.
■必要な工具
キットの経験のある人ならばすでにそろっていることと思います.
写真6 これだけは必要な工具.左から,ニッパ・精密ラジオペンチ・ピンセツト.下ははんだゴテ.
最低上の写真だけあけば作業できます.さらに次の工具があればはかどります.
写真7 左から,ドライバ・抵抗の足折り曲げ器・電線被覆剥き器(ワイヤ・ストリッパ)・はんだゴテ台.
下は万能ハサミ・はんだ吸い取り線(ソルダーウイック)
写真8 さらに,基板を複雑な形にカットしたり,ケースを加工するための工具
●これだけは必要な工具です
(1) ニッパ … ホーム・センタで入手できるものでもOKですが,刃先先端が両側とも隙間なくピタリと合っているものを選びます.精密電工用を購入するときは,切断できる径が制限されるので(太い線材は×),将来的には大小2種類必要になります.
(2) ラジオ・ペンチ … 基板配線用に先端にギザギザがなく,細い線を摘めるものを選びます.少しがんばって精密電工用を入手することをお勧めしますが,これも力仕事をやらせてはいけないので,将来的には大小必要になります.
(3) ピンセツト … 長く使うならば腰が強く,中央から先端の肉厚が厚いものが使いやすいです.
(4) はんだゴテ … 普通タイプならば30W程度の小容量が手ごろです.写真のものは380℃温度調節タイプで少し高価ですがお勧めです.たいていのはんだゴテは机においても使えるようにツバがついています.でも,作業性や安全面から次に記載してある「コテ台」は早めに用意したいものです.
●いずれは必要になってくるものや,作業効率が上がる工具
(5) ドライバ … 写真のものは100円ショップで購入したもので,最初はこれでも十分と思います.とくに,写真の赤色の柄のものは先端がとんがったキリ状のもので,穴を拡大したり,使い道があります.
(6) 足曲げ器 … 正式名「リード・ベンダ」(サンハヤト).自在基板では,部品の成形よりもジャンパを作るのに重宝します.
(7) はんだ吸い取り器 … 1本持っていると役に立ちます.業務で使うなら高価ですが電動式が重宝します.
(8) ワイヤ・ストリッパ … ビニール線を剥く必需品ですが,実は刃の根元のカッターの部分が線材を綺麗に切ったり,ヘッダーという部品をカットしたり非常に使い道があります.
(9) コテ台 … スポンジは下の写真のようにカットするとはんだをしごくのに使いやすいです.このタイプは水を使うので長時間クリーニングするとコテ先端の温度が下がります.水はペットボトルに入れて,そばに置いておくと便利です.スチールたわしタイプのクリーナでもよいでしょう.
写真9 こて台のクリーナ・スポンジをカットして使っているところ
(10) 万能ハサミ … 基板を切るのに使います.本来は糸鋸を使って丁寧に切るのが正道と思われますが,筆者はこれでザックリいきます(後で説明します).
(11) はんだ吸い取り線 … (7)のはんだ吸い取り器のどちらかでもよいですが,フラットICを扱うときは抜群に威力を発揮します.
●カットなどの加工に使う道具
最後に,基板を自由な形にカットしたり,ケース加工をするための工具です.ただし,ガラス・エポキシ基板を加工すると刃先を傷めることもあるので,大事な工具は使い分けることも必要です.ちなみに私はドリル・ビットだけは分けていますが,ほかはあまり気にしないで板金・ガラエポ共用で使ってしまっています.
(12) ハンド・ニブラ … 板金などを食い切るように少しずつ自由な方向にカットしていく工具です.基板を複雑な形にカットするときにも使っています.
(13) ドリルとドリル・ビット … 穴あけに必要な工具です.手回しのピン・バイスという工具もあります.たまにしか使わないならこちらでもよいでしょう.ドリル・ビットは3mmビスに使う3.2~3.5mmは1本ほしいところです.写真のように六角軸のドリル・ビットもよく見かけます.これなら電池式の電動ドライバでも使うことができます.なお,ドリル・ビットは100円ショップでも手に入りますから,ガラエポ基板専用にするのもよいと思います.
(14)ヤスリ … 基板や金属板を切ったところを綺麗にする工具です.いろいろな形状があって迷いますが,幅の広い中目の平ヤスリと半分丸い半丸ヤスリ,そして小穴を広げる小径の丸ヤスリがあると便利です.
番外でテスタ … たいていの人は一番最初に購入する測定器がテスタだと思います.配線の良し悪しをブザーで教えてくれる「導通チェック」機能は自在基板の配線でも力を発揮します.
※どの工具をとっても使い方を間違うと危険な側面があります.くれぐれも小さなお子様と一緒に作業するときは安全確保をお願いいたします.私も姿勢悪く椅子に座って夢中ではんだ上げしていたら,はんだの雫を太モモに垂らしてしまったり,ピンセットを足の甲に落として突き刺したり,開いたまま床においてあったワイヤ・ストリッパを素足で踏んづけて,ざっくり怪我をしたことなどなどあります.ご注意を!
● 難易度の少し高い製作例
写真2の例も立派な配線ですが,次に進む前に少し複雑な自在基板の製作例も紹介します.ロジック回路だけなら配線量は多いですが,すっきりできます.アナログ混在回路は少し雑多な感じになります.芸術品を作るつもりならば限りなく凝ることもできます.後世に残る基板をつくってみませんか.
写真10 ロジック回路だけの回路
写真11 配線量は多くなるが引き回しを統一させてスッキリしている
写真12 アナログ混在だと
次回は,配線に使う材料と基本的な配線を紹介したいと思います.
<高野 慶一>
