オーディオ用のパワー・アンプを製作するためのシミュレーションを紹介します。
製作するパワー・アンプは定数の変更で10W~50Wくらいまで対応できる回路を設計します。
あまり凝らず、少ない部品点数で再現性に優れた回路を目標にしています。
シミュレータはトランジスタ技術の付録CDに入っていたPSpice Ver10 評価版です。これに、電子回路シミュレータPSpice入門編のCDに入っているTRAGIライブラリを組み込み使用します。
● シミュレーションの準備(2SK117BLのモデリング)
入力にコンデンサを使いたくないので、パワー・アンプの初段は入力電流が極少ない、FETにします。
初段は雑音が混入しにくい差動増幅器にします。差動増幅器には特性が揃って、直流ドリフトの少ないデュアルFETを使いたいのですが、入手性の良かった東芝製がすべて製造中止です。しかたないので、初段のFETは入手性とgmの大きさから東芝の2SK117BLを選びました。
出力の直流ドリフトはスーパサーボを施し対策することにします。
トランジスタは特性のバラツキが少ないのですが、FETはそうはいきません。同じ型名でもIdssのランクが異なるとうまく動作しません。
下記は東芝のデータ・シートからの2SK117の特性です。
2SK117BLはIdssが6~14mAです。同じ2SK117BLでもVgsゲート-ソース間電圧が0.2Vのとき、流れるドレイン電流は3.5mA~8mAまでバラツクことがわかります。
したがって、実際には特性の揃ったものを選別して使用します。
(Idss:ゲート-ソース間をショートしたときのドレイン電流、下記のId-Vgs特性のVgs0VのときのIdの値)
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驚いたことに2SK117のデータブックにはBLランクの出力特性がない ! それではと親切な和製ボブピースに頼み込みカーブトレーサでデータを取ってもらいました。

X:2.5V/div Y:2mA/div Vgs:上から0V,-0.1V,-0.2V-0.3V,-0.4V,-0.5V,-0.6V
2SK117BLのデータ・カーブをみながらパラメータ値の設定をします。雑音特性をたてるとgm特性がたたずとトレードオフに悩みましたが、とりあえずは動作確認に使えれば良いと割り切り、Idss:10mA程度を想定して下記の数値にしました。
TRAGIライブラリの2SK30のモデルを選択してModel Editorでパラメータを書き換えています。
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PSpiceVer10の評価版を使った理由は、Ver10.5の評価版は Model Editor の使用が禁止されてしまったためです。
Ver10はマーカにバグがあるらしくうまく回路図上にのらないことがあります。そんなときは早々にマーカをつけるのはあきらめ、解析後のProbeの画面でデータを選択し、データ表示します。
回路図は簡単です。


Id-Vgs 特性です。Vgs:0.58Vのときドレイン電流が1mA流れ、Idssは9.968mAであることがわかります。
Dが微分を表します。したがって□のドレイン電流のグラフを微分したのが◇のグラフでgmを表します。ドレイン電流が5mAのときのVgsは約0.27Vでそのときのgmは約16.5mSになっています。

出力特性です。飽和領域ではずいぶん異なったカーブですが、動作確認には差し支えないでしょう、と割り切ります。上からVgs:0V,-0.1Vで写真のデータと同条件です。
パワー・アンプの回路内に1mAの定電流回路を使うのでシミュレーションしてみました。


2SK117BLの雑音特性を確かめるためのシミュレーション回路です。
データ・シートから Vds:10V Rg:1kΩ 1kHz でNF:0.3dB 1kΩ:4.7nV/√Hz なので0.3dBでは4.21nV/√Hz したがって入力ショートでは √(4.21^2-4.07^2)≒1.08nV/√Hz
データ・シートから Vds:10V Rg:1kΩ 10Hz でNF:1.2dB 1kΩ:4.7nV/√Hz なので1.2dBでは4.67nV/√Hz したがって入力ショートでは √(4.67^2-4.07^2)≒2.29nV/√Hz




