フルディジタル マルチアンプ・システム具体的なシステム構成方法
手前味噌になりますが、DCX2496+フルディジタル出力改造ボードを用いたシステムの例を、以下に図示します。
図中で例として使っている、英国LINN社※のスピーカは、ほとんどのモデルでマルチアンプに対応できるようになっています。スピーカの端子蓋を開けると内部にジャンパ端子が仕込まれており、これを差し替えることで、通常のパッシブ・ネットワークと、端子~ユニット直結を切り替えることができます。なおこれを自分で行うと保証対象外になるので、ご注意ください。
マイクによる測定は必須です。マルチアンプの場合、とくに分割域に着目したいので、特性としては100Hz~14kHzほどあれば足ります。
USB 直接接続が可能なダイナミック・マイク(RODE PODCASTER、2万円弱)、あるいはマイク入力付きサウンドデバイスがあるならば、Behringer社の測定用コンデンサ・マイクECM8000(6 千円弱)などがよいでしょう。ソフトウェアには簡易な測定であれば、フリーソフトであるWaveGene、WaveSpectraなどが使えます。 CLIOWin、Praxisなどの本格的な測定システムを使用すると、ステップ応答測定によるタイムアライメントなど高度な調整が可能です。
※LINN社のアンプはAKTIVカードを内蔵することで、「NINKAの High用」あるいは「AKURATE212のMid-Low用」のように働かせることができます。ユニット数分のアンプと各スピーカに対応した AKTIVカードで、チャネル・デバイダ不要のマルチアンプ・システムを構築できます。
(補) ボリュームの制御
マルチアンプ構成で悩ましいのが、ボリュームを入れる位置です。ボリュームがチャネル・デバイダの前にある場合、システム全体のS/N比はチャネル・デバイダで制限されてしまいます。プレーヤー→ボリューム→チャネル・デバイダ→パワーアンプ
×この構成の場合、チャンネルディバイダで発生するノイズも同様にパワーアンプで増幅されてしまいます。
○しかし、ごく普通のプリアンプを使ってボリューム制御ができます。プレーヤ→チャネル・デバイダ→ボリューム→パワーアンプ
○こちらの構成だと、チャネル・デバイダで発生したノイズはボリュームで減衰させられます。
×しかし、3Wayのチャネル・デバイダなら6連ボリュームを使わないといけません。あまり見かけない品です。フルディジタル・アンプの場合には、やはり以下のようになるでしょう。
プレーヤ(レベル変更なし)→チャネル・デバイダ(レベル変更なし)→フルディジタル・アンプ(なるべく電源電圧変更で処理)
ボリューム制御はフルディジタル・アンプ内で行います。制御範囲が電源電圧の変更で済む範囲内では、ダイナミック・レンジやS/N比の悪化がなくて済みます。
このとき、リモコン付きのアンプであれば、なるべく重ねておいて慎重にリモコンを操作することで、複数台のボリューム上げ下げを同時に行えます。
これが難しい場合には、「赤外線リピータ」のような製品を使います。
●所感など
パナソニック XRシリーズのようなA/Vアンプに付いても触れましたが、これらはディジタル音声入力(S/PDIF、HDMIなど)と、DSP、複数のアンプを内蔵しています。つまり、ソフトウェアだけ用意されれば、単体でフルディジタル・チャネル・デバイダ+複数フルディジタル・アンプを構成できるはずです。さらに、最近のものの一部では、音場補正のためのマイク入力も備えています。しかし、対応するスピーカを限定できない、使い方を間違えてツィータにウーファ用出力をつなぐと壊れる、初心者に対する説明は大変である、といったことから、汎用的にこのような機能が一般のA/Vアンプに装備されることはないでしょう。
汎用化できなければ専用化する方向もあります。たとえばMeridianやLINN、あるいはDynaudio Acousticなどで、複数のアンプを内蔵したアクティブ・スピーカがあります。この形なら調整は不要で、マルチアンプの良いところを享受できます。しかし、自分の手で弄り回したいのがマニアの心ですから、その点では受けは少々良くありません。ただ、Dynaudio AcousticのAIRシリーズなど、音は実に素晴らしいです。
個人的には、大容量シリコン・ディスク付きの無音PC+ソフトウェアによるチャネル・デバイダ+HDMIによるマルチチャネルのリニアPCM出力+汎用A/Vアンプ、のような構成に期待しています。HDMIで8チャネル分のリニアPCM信号を出すことができるはずですから、本来サラウンド用の7.1ch信号を期待されているところに、ソフトウェアで帯域分割されたステレオ・3Way用の信号を乗せてやるわけです。A/Vアンプはフロント、サラウンド、サラウンド・バックを処理しているつもりで動作するが実際はマルチアンプの信号を増幅していることになります。非常にシンプルな装置構成でマルチアンプが楽しめるはずです。
多チャンネルのリニアPCMサウンド出力ができるHDMIデバイスが登場したら試してみたいと思いますが、HDMIの扱いは権利保護でややこしくなっているのが心配です。
◆参考文献、リンク洋書ですが、TAB Electronics 「The Audiophile's Project Source Book」 3Wayのアナログ ”リニアフェーズ” チャネル・デバイダが載っています。
- D級/ディジタル・アンプの設計と製作、CQ出版社。ディジタル・アンプについて。PWM、ノイズ・シェーピングなどについて詳しく解説されています。
- 定本 OPアンプ回路の設計、CQ出版社。 アナログ・チャネル・デバイダに必須であるOPアンプの基本です。
- 計測のためのフィルタ回路設計、CQ出版社。OPアンプによるハイパス、ローパス・フィルタ、スピーカ・ネットワークで使われるLCフィルタなどについて詳説。
- 実践 ディジタル・フィルタ設計入門 、CQ出版社。 Javaアプレットで試しながら、ディジタル・フィルタの動作を見ることができます。
- はじめてのDSP活用大全 、CQ出版社。DSPとはどのようなものかに興味が出たらどうぞ。
- C言語によるディジタル信号処理入門、CQ出版社。フルディジタル・チャネル・デバイダを自作する(!)には必読だと思われます。
◆リンク
http://staxt2.hp.infoseek.co.jp/deqx.htm DEQX2.6使用記
http://www.linkwitzlab.com/filters.htm アナログ・フィルタ回路いろいろ
http://katyan4.exblog.jp/ 改造DCX2496を使用されている。http://www.freecon.co.jp/ir_distribution.php 赤外線 リモコン・リピータ
筆者の所属するKENRICK SOUNDでは、主にJBL社製の大型中古スピーカを取り扱っています。また、この連載で紹介した、チャネル・デバイダDCX2496の出力をディジタルに変更する改造も行っています。



