« エレキジャックNo7 手作りオーディオ・アンプのMission4(3) | メイン | エレキジャックNo7 手作りオーディオ・アンプのミッション4(4 ) »

はてなブックマークに追加   フルディジタル・アンプを作る(5/5 最終回)

アナログ入力D級アンプとフルディジタル・アンプの構成の違い
 アナログ入力D級アンプのブロック図は図12のようになります。D級アンプといっても、処理はすべてアナログ信号処理です。PWM 波形の生成もアナログ回路になっています。PWM化とパワー・トランジスタのON/OFF時間などに起因するひずみや、電源電圧の変動は負帰還により吸収されます。

 ローパス・フィルタ部分の、コイルやコンデンサで発生するひずみは負帰還のループに入っていないので吸収されません。また、音量調整用ボリュームにより、音質が変化したり、左右で音量差が目立つ場合もあります。

fig10.png
図12.アナログ入力D級アンプのブロック図(例)

 ディジタル入力D級アンプのブロック図は、図13のようになります。音量の調整からPWMの生成まではディジタル信号処理です。PWM以降はアナログ信号処理になります。したがって、アナログ入力アンプで問題になる音量調整用ボリュームによる音質変化はありません。

 一方、パワー・トランジスタの駆動や、電源電圧の変動によるノイズを吸収する負帰還はありません。さらにアナログ入力D級アンプと同様に、ローパス・フィルタ部分のコイルやコンデンサで発生するひずみは吸収されません。これらのノイズ(ひずみ)を除去するための負帰還がかけられないのは、ノイズを含めて出力をサンプリングし、フィードバックするディジタル信号処理にはダイナミック・レンジの高い A-D コンバータが必要であったり、遅延が問題になったりするためと思われますが、将来技術的に解決されるかもしれません。


fig11.png
図13 ディジタル入力D級アンプのブロック図(例)

 ところで、図13のノイズ・シェーピングとは何でしょうか。図14を見てください。図14はディジタル入力D級アンプのディジタル信号処理の概念図です。入力された音声信号は、音量調整のため固定小数点演算で乗算処理がされます。このとき、小音量でのビット落ちを防ぐためデータの幅が 16ビットから拡張されます。さらにサンプリングレート・コンバータで、元の信号をオーバーサンプリングします。これにより、信号帯域と PWM の周波数の差を大きくし、ローパス・フィルタの設計をやさしくします。

 つぎに、PCM 信号から PWM 信号を生成します。このとき、PWM の幅が 32段階表現できるとすると、24ビット のうち 5ビット しか表現できません。この量子化誤差を補正するのがノイズ・シェーピングです。元の 24ビット と 5ビット の差を、元の信号に加えることで誤差を補正をします。

fig12.png
図14 ディジタル入力D級アンプの信号処理(概念図)

 上記の説明では PWM の幅の表現が、32段階としています。32段階であっても、クロックとしては 384kHz×32 = 12MHz が必要です。高速なディジタル信号になればなるほど、パワー MOS FET の駆動も難しくなってきます。そのため、16 ビット (65536段階, 25GHz), 24ビット (1024万段階) といった高分解能の PWM は利用されていません。

 一方、直接全体に負帰還をかけるのではないようですが、TI の TAS5076 では、電源電圧変動を吸収する「ローカル・フィードバック回路」が採用されているそうです。サンプリング・レート変換や、ノイズ・シェーピングなどのディジタル信号処理なども、今後改良されていくと思われます。フルディジタル・アンプの進化は、これからも見逃せないようです。

ダウンロード
 今回設計したフルディジタル・アンプの回路図などは以下からダウンロードできます。

   download.zip

 個人的に楽しむ範囲では出典(エレキジャックNo.7 ならびに、エレキジャック web (http://www.eleki-jack.com/) と本ページの URL)を明記し、著作権表示(Copyright(c)2008 Noriaki Mitsunaga)を改変しない限り自由に利用してもらってかまいません。オリジナルに改変を加えたものの再配布にあたっては、出典、著作権表示以外に、改変履歴を明らかにしてください(改変がない場合には、再配布は認めません。本ページへリンクしてください)。商用利用については別途ご相談ください。

  • 回路図(PDF, BSch3V 形式) TAS5086-5142.PDF, TAS5086-5142.CE3
  • 部品表(EJ no.7 紹介のケース加工の部品表を含む) parts.pdf
  • パターン(Cadlus-X形式) TAS5086-5142.COMP
  • ソース・ファイル(MSP430F2012用) main.c
  • 簡易ネットリスト変換プログラム(BSch3VのNL3Wの出力を Cadlus-X で読み込める形に変換) conv.c


参考文献
 

[1]本田 潤 編著. D級/ディジタル・アンプの設計と製作. CQ出版社, 2004.
[2]MSP430x2xx Family ユーザーズ・ガイド. JAJU037A (SLAU144B 翻訳版), 日本テキサス・インスツルメンツ.
[3]MSP430x20x1, MSP430x20x2, MSP430x20x3 Mixed Signal Microcontroller data sheet. SLAS491D, Texas Instruments.
[4]TAS5086 PurePath Digital PWM Processor data sheet. SLES131B, Texas Instruments.
[5]TAS5086 PurePath Digital PWM プロセッサ使用法. JAJA136, 日本テキサス・インスツルメンツ.
[6]TAS5142 Stereo digital amplifier power stage data sheet. SLES126B, Texas Instruments.
[7]TAS5142DDV6EVM2 User's Guide. SLLU095, Texas Instruments.



<光永 法明>

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.eleki-jack.com/mt/mt-tb.cgi/1678





カレンダ

2015年10月
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

おすすめ書籍

会社案内
情報セキュリティおよび個人情報の取り扱いについて

コメントとトラックバックは、spamを予防するために、編集担当が公開の作業をするまで非公開になっています。
コメントはそれぞれ投稿した人のものです。

About

2008年7月23日 11:04に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「エレキジャックNo7 手作りオーディオ・アンプのMission4(3)」です。

次の投稿は「エレキジャックNo7 手作りオーディオ・アンプのミッション4(4 )」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。

Powered by
Movable Type 4.1
/*yahoo remove*/