【 はじめに 】
フリースケールのマイコン・ファンの間では 「もうとっくに HCS08 や RS08、ついには ColdFire V1 の時代」 と言われることもありますが、まだまだ従来型の HC08マイコンの供給もしっかり続いています。
数ある従来型 HC08マイコンの中でも、とくに使いやすいのが QT/QY/QB です。
これらは、自作もできる安価な開発ツールが使えることで 「ちょっとだけ試してみようか」 という向きにもピッタリなマイコンとなっています。この連載では、その中で比較的新しい MC908QY4A というマイコンを使い、いろいろなサンプル・プログラムをお見せする予定です。よろしくお付き合いください。
とはいっても、今さら BDMインターフェースのない従来型の HC08 なんて・・・と感じる方も多いでしょう。その気持ちはよくわかります。しかし、逆にいえば BDM を備えた新しい HCS08, RS08 などは、今後もっと広まって読みやすい解説書なり何なりが出てくることが期待できます。従来型の HC08マイコンの解説は、今やっておく必要がある、と筆者自身は考えたのです。
そこで、単なる紹介ではなく、実際に使えるようになる解説を、この場をお借りして書いて行こうというわけなのです。
【 HC08 QT/QY/QBマイコンの特徴 】
今回は第1回なので、QT/QY/QBマイコンの概要について説明しておきましょう。
型番の例 MC908QB8 , MC908QY8 , MC908QT4A , MC908QY4A ,など
(とくに古いもの MC68HC908QT4 , MC68HC908QY4 , MC68HLC908QY4 ,など)
◆電源電圧は5Vまたは3Vで使用できる (HLC は3Vのみ)。
◆扱いやすいDIPパッケージが用意されている(QTは8ピン、QY/QBは16ピン)。
◆とても素直なCPUアーキテクチャで16ビット・アドレスによるフラットなメモリ空間をもつ。
◆内蔵フラッシュROMは1.5K~8KBで単一電源(5Vまたは3V)による消去と書き込みが可能 (HLC は3Vのみ)。
◆RAM は128バイト(QB8,QY8は256バイト)を内蔵。
◆内部にクロック発振器をもっているのでピンをむだにしなくて済む。
◆実質的に2本分(QB4,QB8は4本分)として使える16ビット・タイマを1本もつ。
◆A-D変換器は10ビット(QT/QYのうちとくに古いものは8ビット)精度で4~10chを内蔵。
◆シリアル通信モジュールを内蔵(QB4,QB8のみ)。
◆汎用入出力ポートは、QTが6本、QY/QBが14本をもつ(いずれも1本は入力専用)。駆動能力はPORTAが±25mA、PORTBが±15mAと大電流。
◆統合開発環境CodeWarriorの無償版が無期限に使えて、優秀なCコンパイラも利用できる。
◆すべての従来型HC08マイコンはマスクROM領域にモニタプログラムを持っているので、安価な開発ツールでもオンライン・デバッグが可能。
いかがでしょうか? 決して 「古くて使い物にならない」 マイコンではないということがおわかりいただけたと思います。
HC08スタータ・ボード・キットVer.2 の写真 (組み立てたところ)
連載の進め方としては、まず HC08スタータ・ボード・キットVer.2 を使ってマイコンの中身に慣れるようにして、その後でユーザ・モード・モニタを使ったデバッグを紹介していきます。
この連載を読んで実践していくと、マイコンの中身(とくに内蔵周辺モジュールの専用レジスタの扱い)が一つずつ順番に理解でき、最後には下の写真のような作品 (赤外線リモコン・カー) が作れるようになるというストーリで進めていきたいと思います。
途中、PWM 出力や A-D変換なども扱っていきます。お楽しみに!
赤外線リモコンカーの完成イメージ
この写真では MC9S08QG8 と MC908QB8 それに 3V駆動タイプの電磁リレーを使っていますが、今回の連載では送信側・受信側とも MC908QY4A を使い、高価なリレーではなく入手しやすいモーター・ドライバIC を使います。MC908QY4A にはシリアル通信モジュールがないので、ソフトウェアによるシリアル通信を行います。
『用語解説』
◆HC08マイコン : モトローラ社が開発したマイクロコントローラで、世界中で大量に使われた HC05 をさらに改良した製品。モトローラ社の半導体部門が 2004年に丸ごと分社化してできたフリースケール・セミコンダクタ社が引き継いでいる。自作できるプログラマも含め トランジスタ技術2005年11月号 に詳しい解説あり。
◆BDMインターフェース : フリースケール社の最近のマイクロコントローラに備わっている開発用インターフェースで、6ピン・コネクタを使用する。BDM Multilink や USBSPYDER08 などの開発ツールが必要。 トランジスタ技術2006年6月号 に詳しい解説あり。
◆HC08スタータ・ボード・キットVer.2 : 筆者の設計による、簡単なトレーニングボードにもなるプログラマ・デバッガの組み立てキット。マルツパーツ館、千石電商、マイコン工作ファンSHOP で購入できる。
◆ユーザ・モード・モニタ : マイコンのリソースをほとんどまったくといってよいほど使わず、PTA0 ピンだけでオンラインによるフラッシュ書き込み、デバッグを行う手法。 「試しながら学ぶHC08マイコン入門」 (CQ出版) の Appendix F に 12ページにわたる詳しい解説あり。
組み込みエンジニア 川野亮輔
